プロローグ

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 あらゆる業界で起こっている個人商店の相次ぐ閉店、それは地域活性化を望む商店街の空洞化を加速させてしまっている。そしてこの事態は、文玩堂のような中小問屋の存続までも激しく蝕んでしまっているのだ。 「この先この日本で暮らしていかなきゃならんガキどもは、かわいそうだな」  結城は、カードゲームの手札の入った派手に印刷された薄っぺらな袋を恨めしそうに見つめた。自分の子供の頃のおもちゃと言えば、女の子は着せ替え人形やドールハウス、大きなぬいぐるみ、男の子は超合金のロボットやラジコンカー、プラモデルなんかが主流だった。現代のように二次元の世界に没頭するなど考えもしなかった。  それがどうだ。男も女も子供も大人も関係なく、誰もがテレビゲームに夢中になってしまっている。それにカードゲームと言えば、自分達の時代はメンコ以外に考えられなかった。それが今やゲームセンターに足を運んで、そのカードを機械に差し込んで遊ぶという。結城にはまったく理解が追いつかない。  おそらく昔は、得意先におもちゃを納品する際に使う段ボール箱はもっと大きかったに違いない。今は何もかもが二次元化してしまったせいか、玩具は皆コンパクトになってしまっている。おかげで10軒の店を回る時でさえも、配送に使うワンボックスの中はいつもガラガラだ。商品が入り切らないという事態をクリスマス時期でさえ結城は見たことがない。 「それにしても、いくら生き残りの為とは言え、抱き合わせ販売しかしねえっていう漫遊のやり方はどうかと思うねえ」  漫遊社は数ある玩具メーカーの中で国内最大手だ。取り扱い品目は超合金ロボットやぬいぐるみ、プラモデルに知育玩具などいわゆる「おもちゃ」を多岐に渡って取り扱っている。また、テレビゲームソフトの開発についても子会社を立ち上げ、なんとか時代の波に乗ろうと必死だ。  この漫遊社の商売の方法としては、小売店が、大きな販売数を見込めるヒット商品を注文する為には、漫遊社の抱える不良在庫も同時に仕入れなければその商品を卸さない、という独占禁止法すれすれ、ないしは違反に近い商法を行っている。簡単に言うと、売れ筋のキャラクターのカードゲーム4セットに対し、不良在庫となってしまったカードゲームをアソートで8セットも合わせて仕入れなければ売れ筋商品を流さないのだ。
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