プロローグ

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 当然売上げの少ない個人商店にとってこの条件は過酷で、売れ筋商品を無理に仕入れようものなら不良在庫を大量に抱え込むことになってしまう。だからと言って、売れ筋商品を店頭に置かないことには商品の鮮度が落ち、客離れを免れることはできない。どちらにしても地獄というわけだ。こういったメーカーが増えてしまうと、販売力の弱い個人商店は店を畳む他仕方がなくなってしまう。  では、こういった条件を販売力の強い量販店等はどのように回避するのか。これには商社の存在が欠かせない。量販店は全店に売れ筋商品を並べる為に、商社に対し大量に発注をかける。商社は言われる数量をメーカーから仕入れるが、当然抱き合わせの不良在庫がついてきてしまう。そのおまけを量販店が仕入れるはずもなく、売れ筋商品だけをきっちり仕入れる。結局残されたおまけ達は、商社の倉庫でしばらく眠らされるのだ。運が良ければ、量販店が主催する「在庫一斉処分市」や「夏休みフェア」「クリスマスフェア」などといったバーゲン時期に原価割れの薄利多売で売りさばかれる。量販店主導型の両者の連携プレーで、メーカーの提示する非道な条件をなんとか回避しているのだ。 「それじゃあ、行ってくるよ」  配達の準備を終えた結城は、事務所にいる女性事務員に一声かけた。初老の彼女は、伝票の整理に追われており、結城の声が聞こえた素振りを見せなかった。しかし、それに構うことなく結城は再び倉庫に戻った。  パンパンと両手についた埃を払った後、首に巻いているタオルで額の汗を拭い、グググッと腰を伸ばして気力を振り絞った。  錆び付いて気味の悪い音を奏でる倉庫のシャッターを上げ、結城は商品を乗せた台車を押して外に停めてあるワンボックスに向かった。
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