プロローグ

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 この日一軒目の「おもちゃのカメヤ」に到着した。カメヤは宝町商店街の中に店を構えている。店主の亀谷は昨年65歳を迎えた初老の男だ。この店は個人商店にしては珍しく、なんとか細々と営業できている。結城は亀谷となぜか馬が合い、毎日のように顔を出すようにしている。 「あれれ?亀谷さん、今朝は寝坊でもしたのか?」  時計を見ると11時を過ぎている。商店街の他の店は既に開店準備をすませ、客の対応に追われている。しかし、亀谷の店は、扱っている商品が商品なだけに、多少寝坊をしたところで大きな影響はないと言えばない。どのみち主要顧客である子供達は、今頃学校の教室で小難しい勉強をさせられているはずだからだ。極端な話、午後から店を開けた方が無駄な光熱費を払う必要もない。にしてもだ。毎朝店で近所の老女達と世間話に興じる亀谷の妻が、この時間、自宅に引きこもっていることなどあり得ない。間違いなく何かあったのだ。  どちらかが体調を崩したのか、もしかしたら病院に行っているのかもしれない。それにしても帰ってくるのが遅過ぎる気もした。 「カメさん、さっきから呼んでも一向に出てこないんじゃ。まさかこのまま起きてこないってことないじゃろか言うて、みんな心配してたんじゃ」  隣の古本屋の年老いた店主が、分厚い老眼鏡を外しながらペタペタとサンダルを鳴らして店先に現れた。この店は普段から客の入りが悪く、店主はいつも暇そうに読書に耽っている。おそらくカメヤが開店していないことに戸惑っている結城を見つけて、暇つぶしに出てきたのだろう。 「まさかそんな。昨日はピンピンしてたんですよ。奥さんだっていつものようにお客さんと楽しそうに話してましたし・・・」 「そうじゃが・・・。でもこれだけ呼んでも出てこないってことは、なんぞ遭ったんじゃなかろうか?」 「どちらかが体調を崩されて、病院に行かれたとか・・・。救急車が来た様子はありませんでしたか?」 「儂の知ってる限りでは気がつかんかったのぉ」 「とりあえず裏口に回って、様子を見てきます」
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