第1章

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 気を取り直して紙に向かうふみと距離をとり、手元を覗きながら文字の運びを見ていた。 「先生。お客さん来たみたいだよ」  清太の声が、少し強張って聞こえた。庭を見ると、幼馴染がきちんとした紋付の男と立っていた。 「一馬!お主良かったな!一緒に京に行けるぞ!」  縁側まで出向いた私の手を取って、幼馴染は嬉しそうにそう言った。  清太は驚いたのか、慌ててふみのところに逃げて行った。 「どういうことだ?さして、何も話した記憶はないのだが……」 「人柄と何か怪しい繋がりがないかを見ておったのだ」 「しかし……」  てっきり、終わった事だと思っていた。大した身寄りも腕もない自分にこんな話が通るはずもないと。  はたと振り返って、ふみと清太を見ると何か怯えたようにこちらを見ている。 「仕官がかなったのだ。これでお主、嫁ごももらえるぞ。一年で帰って来れるんだ。良い話だろう?」  そう言ってちらりとふみを見て、私に向かって意味深な笑みを向ける。 「いや、私は特段……」 「まぁいい。一馬。この書状を持って五日以内に来てくれ、十日したら江戸を発つんだ」  書状を手渡され、私は話を飲み込めぬまま、彼らは軽く頭を下げて帰っていった。  呆然と縁側に立ち尽くした私の足に清太がまとわりついて「先生。先生」と呼ぶのが遠くに聞こえる。  我に返ると、清太の目線に屈んだ。 「清太。先生は武士だったようだ……」 「先生。やめちゃうの?」 「そうだな……」 「帰ってくるよね?京に行くんだろ?先生、ここに帰るよね?」  庭を見ると、黄色い葉が一面に庭を埋め、真っ赤な紅葉が風に揺れていた。 「帰りたいな。ここに……」  そう呟くと、清太が下唇を噛んで裸足で庭に下りていって、黄色い葉を舞い上げる。紅葉を数枚拾い上げて、一枚を私に差し出した。 「これ、持ってけよ!!お守りだよ。京は遠いから、ここに無事に帰れるようにっ」  泣くのを堪えているのがわかって、清太を抱き上げた。 「ありがとう。これは利きそうだな。清太は頭がいい。大工にはなれないが、立派な人になるよ」  そういうと堪えていた涙が双眸から零れ落ち、私の手をすり抜けてふみに泣きついた。    
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