第1章

12/13
前へ
/13ページ
次へ
「こっちにいるよ。手紙は書けたかい?」 「はい!書けました!!」 「そうか、明日小僧さんに見てもらって、清太に渡すといい」 そう笑うと、ふみは首を横に振った。 「先生に!先生に書いたんです。お守りも入っています!」 「私に……?」  うんうんと首を縦に振って、目には涙が溜まっていた。 「お気をつけて。必ずお帰りくださいね。うんときれいな字が書けるように練習して待ってます。見てくださいますね?」 「おふみ……」 「ね、先生。約束です。再来年必ず梅も桜も紅葉も見ましょう」 「そうだな。おふみさん。約束だ。土産に京の紅葉を拾ってこよう」 「はい。先生……」  泣くのを堪えて必死に笑顔を作ってくれた。  差し出された手紙を受け取る時、きゅっとふみの荒れた手を握った。走ってきたせいだろうか、熱くて、しっとりと汗ばんでいた。  見送ってから縁側で、手紙を開くと赤い紙に文字が連ねてあった。 ――――――  かずまさま  きようのもみじはきれいでせうか  どうか    おからだだいじになしくださるべくそうろう  おまちしています           かしこ ――――――  きれいではないが、優しい文字だった。  そして、そこには紅葉が挟んであった。  *****  もっと字を練習しておいたら良かった。  もっとたくさん教えてもらえば良かった。  もっと、もっと、もっと……。  取りとめもなく考えて、流れ出る涙を止める事は出来なかった。  一年したら、また会える。  それだけを信じて、店の手前で涙を拭って、袖から貝殻を出して握り締めた。 ――――先生の手、大きくて暖かかったな。      *****  京へ向かう道すがら、立ち寄った宿で荷解きをしていると幼馴染が寄ってきて、懐の紙を指差した。 「それ、文か?」 「ああ。『ふみ』だよ。お守りも入ってる」 「ほぉ~。隅に置けないねぇ」  文……ふみ。  そうだな、これは『ふみ』だ。  愛おしそうに、懐を撫でると暖かい気持ちが溢れてくる。  必ず帰る……。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加