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「こっちにいるよ。手紙は書けたかい?」
「はい!書けました!!」
「そうか、明日小僧さんに見てもらって、清太に渡すといい」
そう笑うと、ふみは首を横に振った。
「先生に!先生に書いたんです。お守りも入っています!」
「私に……?」
うんうんと首を縦に振って、目には涙が溜まっていた。
「お気をつけて。必ずお帰りくださいね。うんときれいな字が書けるように練習して待ってます。見てくださいますね?」
「おふみ……」
「ね、先生。約束です。再来年必ず梅も桜も紅葉も見ましょう」
「そうだな。おふみさん。約束だ。土産に京の紅葉を拾ってこよう」
「はい。先生……」
泣くのを堪えて必死に笑顔を作ってくれた。
差し出された手紙を受け取る時、きゅっとふみの荒れた手を握った。走ってきたせいだろうか、熱くて、しっとりと汗ばんでいた。
見送ってから縁側で、手紙を開くと赤い紙に文字が連ねてあった。
――――――
かずまさま
きようのもみじはきれいでせうか
どうか
おからだだいじになしくださるべくそうろう
おまちしています
かしこ
――――――
きれいではないが、優しい文字だった。
そして、そこには紅葉が挟んであった。
*****
もっと字を練習しておいたら良かった。
もっとたくさん教えてもらえば良かった。
もっと、もっと、もっと……。
取りとめもなく考えて、流れ出る涙を止める事は出来なかった。
一年したら、また会える。
それだけを信じて、店の手前で涙を拭って、袖から貝殻を出して握り締めた。
――――先生の手、大きくて暖かかったな。
*****
京へ向かう道すがら、立ち寄った宿で荷解きをしていると幼馴染が寄ってきて、懐の紙を指差した。
「それ、文か?」
「ああ。『ふみ』だよ。お守りも入ってる」
「ほぉ~。隅に置けないねぇ」
文……ふみ。
そうだな、これは『ふみ』だ。
愛おしそうに、懐を撫でると暖かい気持ちが溢れてくる。
必ず帰る……。
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