第1章

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 *****  それから、日本は変わっていった。  徳川様が江戸城から居なくなって、たくさんの戦争があった。  何年経っても、先生は帰ってこなかった。  私は、大工にはなれなかったがそろばんの腕を買われ、舶来の取引をしている店に雇われた。  時は明治になって、学ぶ事も増えた。  寺子屋、手習は学校というところに名を変えた。  私は、あの指南所だった建物を買い取って、家に改築した。  いつか、先生と紅葉を見るために。  おふみさんは、ずっと待っていた。お店の女中頭になっても時折暇を見てはここへ来る。いつも大事そうに貝殻を持っている。  今年も、落ち葉が庭を埋め尽くしている。紅葉がそろそろ真っ赤に色づく頃だ。  ――先生、「きよう」の紅葉はきれいですか?
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