第1章

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 そう言って紙を胸に抱き締めると、鐘の音を聞き、踵を返して草履を引っ掛けて慌しく帰っていった。  仕事の合間に暇を貰ってきていると言う。下働きだから水仕事も多いのだろう。夏場はいいがこれからの時期は、ああして手が荒れるようだ。昨年来た頃も、指先が割れていたのを思い出し、数日前に町で膏薬を見つけて買ったのだ。  *****  早くお店に戻らないと!!そう思いながら町を必死に走った。 しっかり握り締めた紙には、不恰好な文字が連ねてある。  立ち止まり、折りたたんで、袖に入れると、指先に何かが当たった。 ……お薬……。明日帰さなければ。  先程、筆を持ちづらそうなのに気がついたのか「先生」が膏薬を貸してくださったのだ。  こちらを気遣って清ちゃんに持たせてくれた。  小さい頃に、奉公に来てから読み書きができなくて、同じ下働きのお姉さんから「ここなら」子供でなくとも教えてくれると聞いて一年前にお願いに来た。  羊の刻位に、私が暇の取れるときお駄賃程度で教えてくれるいい、快く受けてくれた。そして行けば丁寧に教えてくれた。  先生はお侍さんだが、今は浪人なのだと言う。私は先生には刀より筆のほうが良く似合っていると思う。  血の匂いよりも、墨の匂いのほうがいい――――――。  お店に戻ると、小さい小間物屋とはいえ住み込みの者の夕餉の時間が迫っていた。急いで手を洗って、手伝いに入った。 「すみません。ただいま戻りました。ありがとうございました」 「おや、おふみちゃんおかえり。こっち手伝っとくれよ」 「はい!お姉さん」  お姉さんと呼んだこの人が、先生を教えてくれたのだ。  
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