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「手紙は書かないのかい?」
煩い清太が居ないのを見計らって、なんとなく気になって聞いてみた。
もういいのではないか?そう思ってからもう数回経っているが、いっこうに手紙を書く様子がないふみに疑問を持ったのだ。
「もう少し。もう少しだけ通っちゃいけませんか?」
懇願するように訴えてくるふみに、咎めるつもりで言った訳ではないのだが、嫌な思いをさせたのかもしれない。
大した金を貰ってるわけではないが、彼女に無駄な金を払わせるのも気の毒だった。今なら筆と墨と紙も分けてやれるし、誰ぞに書きたいのなら書いてみればいいと思っただけだった。
「構わないが、今の内に書けば紙や墨を使って良いぞ。給金だって無駄に出来ないだろう?」
俯くと戸惑ったように落ち着かない様子で小さい声で「はい」とだけ答えた。
会話に困ってしまって、机を挟んで必死に文字を書き続けるふみをチラリとだけ見て、落ち葉で黄色く染まった庭を眺めていた。
そこへ、昔通った道場の幼馴染が顔を出した。
最近の世相は詳しくないが、黒船が来たり、京が荒れてるとかで、仕官の話が最近増えているのは知っていた。
幼馴染が持ってきた話は、そんな話だった。
「いや、私は武士らしくもないし、このまま小さな手習いを教えるのが向いているんだ」
「そう言うな。お主だって武士だろう?こんな機会はないぞ。お前は頭もいい。いい話だぞ。まずは来てくれないか。それで上が駄目と言うなら仕方ない」
気乗りなど全くしなかった。武士と今更言われても、何が出来るのだ。毎日鍛錬していたわけでもない。自分が行った所で何にもならない。それでも、武士ならば……なのだろうか。
「まぁ、気が向いたら来い。私もお主なら、自信を持って推薦できる」
そう紙切れを置いて帰っていった。
ふみに聞こえていたのだろう。
机に戻ると、先刻見たまま、筆が進んでいなかった。
「あのう。どこかに仕官されるのですか?」
「んー。どうなのだろうな?刀に自信などないしな。あいつは幼馴染だ」
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