第1章

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「では早速、手紙を書こうか。おふみさん」 待っていた清太がそれを聞いて、話しに入ってくる。 「おふみ姉ちゃん手紙書くの?誰に?」  ふみはすっかり忘れていたようだった。一瞬何の事かわからずに「しまった」という顔をした。  その顔がおかしくて、つい小さく噴出してしまった。 「いえ、その手紙の練習を……」  取り繕うようにそう言って、墨をさらにすりだした。 「そうだね。練習か……清太にでも書いてやってはどうだ?」 「おふみ姉ちゃん。手紙ちょうだい!!欲しい」 「う、うん。清ちゃんに手紙書くね」  清太は嬉しそうに走り回ると縁側で嬉しそうに脚をぶらつかせながら待った。 「畏まる事もないな。親しい人に書くのだろう?季節を感じる文章から入るといいのだが、そうだな……」  手本になるよう、少し私が書いてみた。女性ならば優しい文面になれば良いのではないか。 ――――――  そこからなかめるもみじはあかくそまつておりますでせうか  せいたさまにはしたしくさせていただき  うれしくおもひます  おからだだいじになしくださるべくそうろう                      かしこ  せいたさま               ふみ ―――――― 「これでどうだ?」  書いていた半紙をひっくり返してふみに見せると、声にして読み始めた。 「おいおい。ここで話したら相手に聞こえてしまうぞ」  思わず笑って、ふみの口を押さえて、自分の口の前で「内緒」の合図を出した。  「ひゃ!」  高い声がして、ふみがひっくり返った。真っ赤な顔をして自分の口を押さえていた。 「すまん!いや、その」  教え子とはいえ、うっかり年頃の女子に障ってしまうなど、我ながらなんてうかつな事を……。  そう思うと、頭が熱を持つ。  ひっくり返ったふみに手を差し伸べて、起こしてやると視線を感じた。 「先生。おふみ姉ちゃんといちゃついてるのか?」  嬉しそうな清太の顔に、ますます頭が熱くなるが、ふみが座りなおしたのを確認すると、清太のおでこに指を弾いた。
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