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「神崎先生、寝てました?」
ショートカットの髪に長めの睫を揺らしながら、委員長である女子生徒の成瀬がいたずらっぽく微笑んだ。
どうやらうっかり眠ってしまっていた。黒板には「メイド喫茶」と大きく書かれている。揉めていた今年の文化祭の出し物がようやく決まったのか。生徒たちは盛り上がり、すでに衣装の提案まで飛び交っていた。
この高校に赴任して5年。毎年同じイベントを繰り返しながら時は過ぎていく。三十歳を前にして、成瀬や他の生徒の元気がやけにまぶしく感じた。
「すまん、昨日ちょっと遅くて。メイド喫茶か……」
「はい。反対ですか?」
「いや、おまえらがやりたいものやればいいよ」
「先生がやる気がないのはダメです」
「俺のやる気は必要ないだろ?そもそも文化祭っていうのは生徒が主体となってやるんだから」
「神崎先生が先生らしいこと言ってる」
「茶化すな」
「……先生、それより警察から連絡ありました?」
「何もない。心配するな、必ず戻ってくるから」
「何か聞いたら絶対教えてください。楓は私の親友なんです」
そう言うと成瀬は目を伏せ、女子生徒の輪に戻っていった。
神崎が受け持つ生徒、楓がいなくなったのは三日目前のことだ。いつものように学校に行き、授業を受け、友人である成瀬と一緒に下校したが、成瀬と別れた後に自宅には戻らず、まるで神隠しにあったように忽然と姿を消した。
警察は誘拐、事故の両面から捜査を始めているが、足取りはまったく掴めていない。
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