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藍色を帯びた夕陽が教室を包み込む。
腐敗した教室の床を見つめたまま、僕は動けないでいた。
鶫の言葉が何度も脳内で再生され、その度に頭痛は激しさを増す。
『お父さんも、同じような言い訳をしたんだと思うよ』
動悸が高まっていくのがわかった。
僕のお母さんと郁さんのお母さんと一緒にいたお父さん。
郁さんが言っていた。三人は高校生の時から一緒なのだと。
秕と楓と一緒にいる僕。
秕とは恋人で、楓とは友達だ。
「違う……違う、違う」
僕はあんな奴とは違う。
自分の欲を満たし、飽きては相手を変えるような、あんなクズとは________
『君は都合よく彼女達を利用しているだけだ』
頭から離れない。
どれだけ否定しても、彼の言葉に全て埋もれていく。
『君みたいな奴は、都合が悪くなると自分だけの世界に閉じ籠る』
耳を塞いでも止まらない。
僕は秕を利用している。独り怖いから秕といる。死ぬ気なんてこれっぽっちもなくて、可哀想な僕に同情してほしくて。楓と仲良くしてるのも、独りにならないためで。
彼女達が僕を必要としているんじゃない。
僕が彼女達を必要としている。
そこにあるのは理解ではなく、ただの理想。
「ああ、………」
記憶の中のみんなが黒く染まっていく。
逃げるように記憶を遡る。けれど、どこにも僕の理想はなかった。
まるで僕の見てきたもの全部、偽物みたいだ。
遡っていくと、黒く潰れたお母さんがいた。
『早く死んでよ』
言葉なんて使えば使う程軽くなっていくのに。
その言葉だけは重さを失わず、いつまでもずっしりと僕の中で残り続けた。
全部全部、嫌なこと全部。思い出す。
お父さんがいなくなって、お母さんが泣いて。
いない相手の分の食事をして用意する。
そこに僕の分はない。
お母さんが縋っていたものは、形をなくしてもお母さんの中で残り続けた。
僕が何をしてもお母さんは振り向いてくれなかった。
だから___________
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