16 . 逢崎 要

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「そういえば、カナメとこうやって夕食を食べるのも久しぶりだな。ここのところ忙しかったもんだから。どうだ、最近の調子は?」 「……えっと、」 単純な質問。それが何故か気持ち悪くて、僕は上手く答えることができなかった。 お父さんはただ喋っているだけなのに、言葉の一つ一つに纏わり付くようなベタつきがあった。 「元気みたいだよー。彼女もいるみたいだし」 郁さんが代わりに答える。助け舟を出してくれたのは嬉しいけれど、できればその事には触れて欲しくなかった。 「へえ、そうなのか。しっかり青春してるじゃないか、カナメ」 お父さんが破顔し、美味しそうに喉を鳴らしながらビールを飲む。 「カオルも彼氏の一人や二人くらい作りなさいよ。黙ってればそこそこ可愛いんだから」 「おーっと、今の言葉は聞き捨てならないなぁ。私は喋ってても可愛いよーだ。私に見合う男がいないだけだってば」 菫さんがからかいに郁さんは慣れたように返答しながら、ご飯を口に含んだ。それからしっかり噛んで飲み込んでから続ける。 「てか、もう何回目よ、それ聞くの。私には私のペースがあるんだってば」 「だってもう二十一よ? せっかくの大学生活がもう終わっちゃうわよ? もっと楽しみなさいよ」 「まあまあ、カオルならそのうちいい相手が見つかるさ。黙ってれば可愛いからな」 「お父さんまで言うかっ」 三人が楽しそうに会話を進めてく。 すぐ隣にいるのに、とても遠くに感じる。僕だけが別の場所にいるみたいだ。 あ、目の前のお父さんが笑っている。 その表情は何度も見たことがあった。 お母さんといた時も、同じように笑っていた。 楽しそうに。 僕はいてもいなくても一緒だ。お母さんの用意した料理を食べて、満足して、グラスに注いだビールを飲みながら談笑して。 全部、同じだ。 あの日の光景と重なる。 お母さんが笑っていた。 息苦しい。胸が締め付けられる。心臓の音が頭の中で響き渡る。声も重なる。 笑い声がうるさい。 みんな笑ってる。僕以外。 菫さんとお母さんで、何が違う? 一緒だ。
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