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気がつけば、口が勝手に動いていた。
笑い声は消え、一瞬にして場が静まり返る。
同時に後悔と罪悪感に襲われた。
お父さんはグラスを片手に持ったまま固まっていたけれど、やがてゆっくりテーブルの上に置くと落ち着いた様子で聞き返してきた。
「どうした、カナメ。急にそんなことを聞いて」
「お父さんの隣にいる人と、お母さんと、何が違うの?」
急に自分を指されたからか、菫さんの表情が強張った。
「何もかも違うさ。同じ人間なんていないんだから」
「お母さんはお父さんを愛していた。お父さんの好きな料理を作って、帰りを待って、笑ってた。僕よりもお父さんの方がずっとずっと大切にしてた。一緒だ」
子供よりも、愛していた。
「あのね、カナメくん。ナツメさんは……」
菫さんが何か言おうとしたが、お父さんが片手で制す。
残り少ないグラスの中身を飲みきり短く息を吐いた。
「カナメ。愛ってのは複雑なんだよ。ナズナを捨てたわけじゃない。距離をとっただけだ。ナズナは少し近すぎた」
距離を取った?
近すぎた?
「俺もナズナを愛してはいたよ。でも、あいつは束縛が強すぎだ。だから俺も息苦しくなってな、色々と追い詰められてたんだ」
追い詰められてた?
「そして、そんな疲れてる俺をスミレが癒してくれた。その時気づいたんだよ。俺が本当に愛するべき相手が誰なのかをさ。だけどナズナは納得してくれなくて、結局ああいう形になってしまった」
本当に愛するべき相手?
なんだそれ。
「だから仕方なかったんだよ」
「仕方ない……」
それが、お母さんを捨てた理由。
ああ、駄目だ。
感情よりも早く体が動いた。
テーブルの上の食器やコップが落ちて甲高い音が聞こえた。
その音が、お母さんが暴れた日の夜を思い出させた。
お父さんの胸ぐらを掴み、椅子ごとそのまま倒れる。
ああ、今日はこんなことばかりだ。
自分で自分のしていることがわからない。僕が僕じゃないみたいだ。
「やっぱり僕は……」
『君のお父さんもきっと_____』
「あんたが大嫌いだ」
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