41 . 姫野 鶫

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もらった線香に、マッチで火をつける。 余らせたらもったいないから、束のまま火をつけて香炉に押し込む。 形だけ両手を合わせる。 彼が死んだと聞いた時は驚いた。 おまけに左目を自分で潰したらしい。 死ぬことを選択した彼には、きちんと称賛を送らないといけない。 てっきり、秕の死体を見ることを言い訳に逃出すと思っていたから。 ごめんね。 君のことを見誤っていたよ。 それでも、秕に相応しいとは思わないし、君に対してくだらないと言ったことも訂正はしないけれど。 ただ楽しませてもらった。 数年前に目を焼いた秕の変化も、生きたくないだけの君の変化も。 僕の暇潰しにはちょうどよかった。 暇潰しなんて言ったら怒る人もいるかもしれないけれど、他人からしたそんなものだ。 人は生きている人よりも死んだ人に関心を寄せる。 届かないものほど、手を伸ばす。 届かない部分を、想像で楽しむんだ。 僕と出会わなかったら、君たちはどんな結末を迎えたのかな。 もしかしたら今よりは、少しだけ優しい終わり方だったかもしれない。 楽しませてくれてありがとう。 同情はしないよ。 僕は君に関心しているんだ。 君はちゃんと死ぬことができた。 生きたくない人生をやめることができた。 息苦しい人生から抜け出した。 苦しい思いをしてまで。 逢崎要、君は頑張ったよ。 だから君に送る言葉はひとつだけ。 「おめでとう」
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