一章 廻り合わせのゴラル

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 担任が教壇に着いたところでクラス委員が号令を発し、朝の挨拶を交わす。 「着席!」  クラス委員の再号令で皆席に着くと、各々が担任と一緒に入ってきた女生徒に視線を向ける。  私が見える範囲のクラスメイトたちの表情は、純粋に転校生が来たことにテンションを上げるよりも、明らかな訝しい顔をしている方が多い。 「さて、まず連絡事項の前に転校生を紹介する」  担任はそう言って場所をゆずり、ドア付近で待機していた転校生に自己紹介するように促す。  それをうけて転校生は教壇の横辺りまで進み出て、後ろの黒板に自分の名前を書きこちらへと振り返る。 「望月比奈実(もちづきひなみ)です。親の仕事の都合で転校してきました。よろしくお願いします」  そう言って、一礼する転校生。  そんな彼女の自己紹介にクラス内はにわかに騒めきはじめる。  何故なら、転校生が着用している制服は“近くの公立高校の制服”だったからだ。しかも、かなり着慣れている感が丸分かりときたものだ。  それは、実に奇怪である。  そもそも、転校生の転校前の公立高校はウチの私立とはせいぜい二キロほどしか離れておらず、親の仕事場が異動となったからといって、わざわざ転校する必要性など皆無だ。こちらは私立故に若干の授業料がかかるし、高校生生活残り約三ヶ月ちょいの時期に無意味どころか損な転校をするなんて正気の沙汰を疑う。
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