一章 廻り合わせのゴラル

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 私は転校生の観察(?)をやめて、自分の席に向かうと、そこには昨日とは違い三年に進級してからのいつもの日常があった。 「おはよう」 「おはよー、イクミン」 「おはよう、郁美君」  私の席の机に夢野姉妹の片割れで言わずもがな希が腰を掛けて、もう片割れの叶さんは椅子に清楚に座っている。  私は鞄を机横のフックに引っ掛け、防寒具を外しながらステンレス製の窓枠に背中を預けて、夢野姉妹といつもの朝の雑談に興じる。 「──あ、そうそう、イクミン、あの転校生には気を付けた方がいいわ」  しばらく三人で他愛無い話をしていると、希が唐突に転校生の話題を振ってきた。  普段は興味の失せたことや興味が無い物事には無関心な彼女が、“転校してきた”事以外に興味を示さなかった転校生の事を持ち出してきたのだ。。  これは、もしかして── 「何かあったのか?」 「……ええ。昨日の放課後に尾行されたのよ。ま、途中で撒いたけどね」 「──それ、マジか?!」 「マジよ。叶が人一倍他人からの視線に敏感だから尾行に気付けたけど、そうでなかったから思うと、今でもゾッとするわね」
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