一章 廻り合わせのゴラル

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 充実した時は時間が過ぎるのが早く感じるというが、実際にこの約二年半を振り返ってみるとあっという間に過ぎてしまった感が否めない。  実に色々な事がありすぎて、思い出話に事欠くことがないと言っても過言でもないかもしれない。  ただ、二年半もの時が流れれば周りの環境や人間関係にもだいぶ変化が生じた。  例えば、水夏さんは高校卒業後、すぐに彼女が所長を務めるデザイン事務所の仕事へと専念。  例えば、夢野姉妹は高一の終りの春休みから《にゃんてSHOP》という何でも屋兼ねこカフェでアルバイトをし始めた。そして、彼女らはそれ迄は私に用事が無い休日には高確率で遊びに来ていたのだが、以後は休日もバイトで私の家に遊びに来るのは月に一回から二回ほどとなって、妹が少し寂しがっていた。ただし、それでも彼女たちが今日まで続いている充実な日々を彩る一端を担っていたのは言うまでもない。  あと、高一の秋に新たな友人ができた。彼のおかげで天魚が私に施した仕掛けを暴く事が出来て、その対策にもいろいろと協力してもらったのだ。以来、彼──安部晴明(やすべはるあき)──とは馬が合うのかよくつるむようになった。  さて、思い出を振り返るのもほどほどにして、朝の教室内を見回す。  季節はもう年末に差し掛かる十二月半ばの冬真っ只中。  大抵は高三なら受験戦争に勤しんでいるのだろうが、このクラスを含む幾つかは就職組なので、未だ就職先が決まっていない生徒を除けば実に呑気である。
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