一章 廻り合わせのゴラル

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 因みに私は就職先が決まっているというか、既に就職済みと言った方が正しいだろう。  それは、水夏さんが代表取締役をしているデザイン事務所である。元々のコスプレ同人サークルの時代からモチのロンでその一員だった私は事務所が立ち上げと同時に、個々の諸事情で正式に参加できなかった数人の方以外の全員がまるっとそのまま所属したのだ。  そんな訳で、私は一先ずは安泰だと他の大多数の生徒同様に呑気にしている。  ふと、教室の前方の壁にかかっている時計を見ると予鈴まではいま少しの時を要するようだ。  再び教室内を見回すと、時間的に殆んどのクラスメイトが揃っているが、いつもはこの時間帯なら私とダベっている夢野姉妹が今日はまだ来ていない。だが、大概こういったときの彼女らは──というか、片割れの夢野希(ゆめののぞみ)が──何かしらのネタをもってくるのだ。 「──おっはよー。ねえ、イクミン、聞いた? 今日、うちのクラスに変な転校生がくるって話」  ──ほらね。 「ああ、おはよう。いや、私は初耳だ。叶(かなえ)さん、おはよう」 「おはよう、郁美くん」  希は鞄を自分の席に置くと時間がおしいのか、防寒具は着用したまま私の席へとやってくる。 「──で、その変な転校生ってのはどんな感じだったんだ? 見てきたんだろ?」
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