普通の料理

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ミサキがへらっとユキに愛想笑いをしてみせた。 カウベルの音を小さくならしたキョウは、買い物袋をぶら下げて、訝しげに店内を眺めた。 「お前らは、ここをリビングかキッチンと勘違いしてるな」 「キョウ!聞いてくれや。ミサキが俺の料理にケチばっかつけるんや!」 「普通だって?」 笑いながらキョウは、買いだしてきた物を所定の位置へと片付けている。 「言われてやんのー」 ミサキがユキにむかって、べっと舌を出した。 「普通ならまだええで?いらっとするとか言うてくるし!」 ルイが思わず苦笑する。 「イラっとねぇ。ま、ほっとけほっとけ。いつかユキのありがたみが骨身にしみる日があるさ」 キョウのまったく取り合ってないような簡単なフォローに、ミサキが「ないない」と手を振った。 「くっそぉ。覚えとけや。いつか、ユキの作ったごはんが食べたい~言わせたるから」 「気長にまってるわ」 ミサキはグラスをカウンターにあげると、ユキを茶化しながら部屋へと戻った。 「いいんだよ。普通で」 キョウが穏やかな顔でそう言ったので、ルイはつられて笑ってしまった。 「せやせや」 その日、ユキが何故か思いつきで作った明石焼きをみて、キョウは絶句していたけれど。 最後のシメにと、常連客の中では意外に好評でもあった。 洒落た小鉢に注がれただし汁の中には、ささやかに三つ葉が添えられていて、ルイはミサキのしかめっ面を思い出した。 けれど。 この予期しない料理も。 いたって普通の味付けも。 ふいに懐かしく、思い出す時がきっとある。 それは、今日のごはんって何?と母親に尋ねた時の気分で。 「うまいやろ?お疲れさんな」 「おいしい、ですけど。ピザとか、食べたかった」 「……また、今度な」 はずれる時も。 あるけど。
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