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「まったく、失礼しちゃいますね」
眉を寄せて、困ったように大村を覗き込んだ。
「いや、僕こそすみません。じろじろみてしまって」
「あはは。全然平気です!手元って、気になるんですよねー。私もユキさんがたこ焼き焼いてるとじっと見ちゃう」
「たこ焼き、ですか」
大村が笑った。
氷とグラスの隙間に、マドラーを差し込むように。
心の中に入り込んで、底に沈んでいた気持ちをかきあげる。
心地よい混沌。
窓に浮かんだ月が藍色の空に映える頃には、一人、また一人とカウンターを埋めていく。
「おかえりなさい」
会話をする時より、ワントーン低いその声は甘く優しく鼓膜をゆらす。
夜が更ける度に客が増えるのは、そうか。
大村は、くくっと笑う。
おそらく自分もそうなるんだろうと、ルイの横顔を見つめた。
笑顔と、真顔が。
くるくると切り替わる。
不安定で、情緒的。
一日の終わりに会いたい。
あの子。
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