月曜日は

2/3
前へ
/71ページ
次へ
PrivateSUNの月曜日は、定休日。 つまり、休肝日である。 「えぇ?!今日月曜日なの?!」 穏やかな秋の夕暮れ。 外の気温とは裏腹に、PrivateSUNの中は降り注いだ日差しで温められていた。 窓際に並んだボトルの影が、淡い色の影を作っている。 その空気を打ち破るようにして転がり込んだのは昨晩締切を乗り越えたばかりのミサキだった。 「ふぁ。ミサキさん、おはよう?」 「うむ、おはよう!ルイ、で、今日が定休日というのはどういうこと?」 「どういうこともなにも、月曜はずっと定休日だろうが」 カウンターの中でミサキには目もくれずに、キョウは備品の整理をしている。 「あぁぁぁあああ!今日は飲みたかったのに!!昨日もさんざんポンちゃんに絞られて飲めなかったのに!」 担当編集者の本多をポンちゃんと呼んで、ミサキが力なく崩れ落ちた。 「大げさなヤツめ……。つーか、お前は締切近くなると曜日の感覚もねぇのな」 「ポンちゃんが、外界からシャットアウトするからね……おそろしい男だよ、まったく」 うなだれたままのミサキの頭を、ルイがポンポンと叩いた。 「つーか、月曜は休肝日にするって決めたのお前じゃなかったけか?」 「さぁ…」 横目のミサキに、キョウの呆れた視線が突き刺さった。 「じゃぁさ、ごはんでも食べ行く?ふぁふぁふぁーぁ」 ミサキの顔を覗き込んで、ルイが大きな欠伸を手で覆った。 「いいね!行こう!行こう!!鳥族!虎門!魚民!」 「どこも飲み屋じゃねーか」 「ユキさんは?誘う?」 「休みなんだし、ほっといてやれよ」 「いや、拗ねるとうるさいから、声かけてくる」 すっかり立ちなおったミサキが、入ってきた時と同じような騒がしさで出て行った。 勢いよく飛びこまれた扉のカウベルも、今日は空回りな音を立てている。 「ルイ」 「んー?」 「お前も試験明けで寝てねーだろ」 「あはは。キョウ心配してる?」 「するか。酔っぱらうとどこでも寝るお前を連れて帰る俺の疲労なら、心配してる」 「……そっか。ごめんねぇ。大丈夫!今日は休肝日だから」 赤く染まるPrivateSUNは、いつもよりも優しい色合いで。 なにも寂しくないのに、胸が騒ぐ。 それは、秋特有のものかもしれないし。 キョウのせいなのかもしれない。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加