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「え?焼酎ないじゃんか」
それがキョウとミサキとの出会いだった。
「今思えば、焼酎詐欺だ」
「え。なんでさ」
「飲んでるのほとんどお前だし?」
「待って待って。なんだと思ったわけ?」
「需要があるのかと……」
カウンター越しに、客にすすめられたウイスキーを飲みながら、ミサキが腹をかかえた。
「ひぃー。あたしは、そんなことまで考えてないー!」
「そりゃそうだ。だってミサキちゃんだもん」と、口を揃えたのは、隣同士に座っている客同士だ。
PriveteSUNでは、こうして客と客がいつのまにやら親しくなって、仲良く隣に腰をかけることもある。
「……笑いすぎだろ」
ミサキは、このビルの3人目の入居者だ。
入居の下見の際に、PriveteSUNの窓際にずらりと並んだボトルを見渡した後、開口一番の台詞がそれだった。
「だって小洒落たカクテルばっかり飲んでても、つまんないよ」
「お前が、な」
呆れたようにキョウがオーダーを受けたキールの用意を始める。
固定客の多いPrivateSUN。
バーと言えばバーだし。飲み屋と言えば飲み屋。
印象は、人によって様々だ。
客層、店の雰囲気は、その日のバーテン次第。
それでも、幸い。
目指す店のイメージは、そんなに遠くないらしい。
「ここは、今日を洗い流す場所」
ミサキがにやりと微笑んだ。
カウンター越しに並んだビジネススーツの客が、「そうだそうだ!」と首を揃えて頷く。
「酒で洗い流してりゃ、世話ねーよ」
キョウが苦笑いで、用意したキールをカウンターから差し出す。
「あたしはさ。ここに拾ってもらったこと、感謝してるよ?キョウさん」
偶然でも。
必然でも。
「こんな風に、馴染みのお客さんたちと楽しめて。ここにいなかったら、連載なんて放り投げて、とっくに実家に帰ってたもん」
ミサキはアイスペールから取り出した氷を、ロックグラスに転がした。
「だから今更捨てるのなんて、できないからね」
ミサキが笑ったのを合図に、さっきまで嬉しそうにうなずいていた客たちは、グラスを持ち上げた。
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