幸せの割り勘

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「夜のこの時間って、空気が落ちてくるみたい」 「ルイってさ、たまに何いってるのか理解できない時があるのよ。興味深いけど」 酔いつぶれたユキを横目に、ミサキがグラスを回した。 今日は水曜日。 一週間の中日であるこの日は、PriveteSUNの客も上がりがはやい。 「そんな事かんがえた事ないよ。夜なんて、酒飲むもんだと思ってるから」 空になったグラスに、手酌でウォッカを注ぎこむ。 ロックグラスには、大きな氷が二つ。 急速に中身を冷やしていく。 「わかりやすく言うと。そうだなぁ。高揚した色彩が舞い上がって、ゆっくりと戻ってくるみたいな?」 「わかりやすいような、まったくわからないような。でも。あたしも、この時間は嫌いじゃないよ。好きでもないけどね。疲れ切って泥のように眠る感じがさ」 ユキを顎で指して、ミサキが「あれね、あれ」と笑った。 ミサキにとっては、この時間こそが勝負。 そんな日のほうが多い。 昼間はたくさんの音や情報が氾濫して、筆が進まないそうだ。 自称155㎝の若手推理作家。 PriveteSUNでは、キョウと互角の酒豪で。 メインはもっぱら「下町のナポレオン」と、ウォッカ。 常連の客に言わせれば、彼女こそが「下町のナポレオン」と口をそろえる。
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