さようならが言いたくて

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 ――よかった。  スラリと背の高い、黒い制服を着た少年が心の中で呟く。  小さな公園の紅葉の美しい並木道に佇み、愛犬を連れて通り過ぎる少女を静かに見つめていた。  少年は、二年前に交通事故で死亡したゴースト――  いつまでも成仏できないままに漂っていた。  今日、ここに来れば少女に逢える。  脳死状態だった自身の臓器で――多臓器同時移植で回復した見知らぬ少女に一目逢いたかった。  今日、少年の命日に、この公園を抜けて事故のあった交差点に必ず向かうはず。  ――やっと見つけた。……元気でよかった。  少年は心で言葉を噛みしめる。  零れんばかりの笑顔の少女の前を、白い鳩が一斉に飛び立つ。 「きゃっ! 一気に飛んで行っちゃった! ――幸せの白い鳩だねー、チョコ!」  気付くとそこに少年の姿はなく、まるで鳩達に導かれるように、澄み切った晩秋の空に旅立っていた。
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