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幼い自分は口を固く結んで、目を細めていている。
こぶしを強く握り、少し震えていた。
この仕草は、よく知っている。
――泣きそうなんだ。
――でも、もう泣いてる……。
泣くと、周りの人を困らせるから。
面倒な子どもと思われ、さらに疎まれてしまうから。
ずっと我慢していたんだ。
だが、実際には。
涙は出ていなくとも。
表に出していなくとも、泣いていたんだ。
心の隅で、大粒の涙を。
いつも、流していたんだ。
幼い自分は天井に向かって口を開いた。
まるで、そこに正志がいることを分かっているようだ。
ゆっくり、涙が表に出ないように、口を動かしている。
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