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咲彩は先ほどまでの大泣きが嘘のような笑顔を正志に向けた。
その笑顔を見て正志も釣られて笑ってしまう。
その後は適当に当たり障りのない会話をし、咲彩と別れ靖子と家に帰った。
「2階の強輔の部屋は掃除しておいたから、ご飯できるまでくつろいでいていいわよ」
「いや……」
「そういえば、4日後から学校始まっちゃうんだっけ? 宿題の方は担任の先生に連絡したから心配しなくても大丈夫だから」
「いやいや……」
「あ、お父さんはお仕事で当分帰ってこれないって。まったく、息子が大怪我しても仕事が優先……困ったもんよねぇ」
「いやいやいや……」
「……? どうしたの? 門前で固まっちゃって」
「いやいやいやいや……」
ワナワナと震えながら、正志は小音量ながらもようやくまともな言葉を発した。
(家、でかすぎだろ……)
目の前には和風の豪邸がそびえたっていた。
一寸の狂いなく、一定の間隔で敷き詰められている石畳。
漆喰塗で仕上げられた、威厳のある破風。
本当にコイツの家かよ、と疑ってしまう。
しかし、残念なことに門には表札が取り付けられており、達筆で『椙波(すぎなみ)』と書かれていた。
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