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ヴ、ヴ、ヴ、と振動音がテーブルを鳴らす。置かれたケータイが、着信を告げていた。
メイコ先輩のケータイだ。
彼女は二つ折りのそれを開き、着信相手を確認して首をかしげた。
「てっきり塾に行った子供からだと思ったけど、違ったわ。カイトからよ、珍しい」
「え、カイト先輩!?」
彼女のつぶやいた名前に、アンニュイだった私の心が、急にドキリと跳ね上がった。
カイト。
始音カイト。
高校時代に片思いしていた例の先輩で、私をフッてメイコ先輩に告白したその人だ。
でも、そんなことは昔の話で、今日メイコ先輩と偶然再会するまで久しく忘れていた男だったけど。
けれど今日は嫌でも思い出さずにいられないし、意識させられてしまう。しかもその名前を聞いて、不覚にもちょっとだけキュンとしてしまった。
メイコ先輩は一瞬だけ私のそんな様子を見ると、今現在、夫になっているその相手からの電話を、
「もしもし、カイト? どうしたの?」
……こともあろうに私の目の前で受けた。
ちょ、何やってくれるんだ、アンタ。
失恋相手の目の前で夫婦のプライベートな会話なんか繰り広げないでよ!
「へぇ、そうなんだ。もう帰ってきてたのね」
唖然として固まってしまった私の目の前で、彼女はあっけらかんと会話を続ける。
それどころか、
「あ、そうそう。いまちょうどミクと一緒にいるのよ。……そうそう、後輩のミク。懐かしいでしょ。話してみる?」
そう言って、私にケータイを差し出してきやがった。
「うぇ!? あ、え、いえ、いえいえけ、結構です!」
「あら、そう? 残念ね」
なにが残念だ。そもそも私に何を言えっていうんだ。
二人とも、末永くお幸せに。か?
冗談じゃない。それを言いたくなくて、彼女から届いた結婚式の招待状だって、読まずに速効で破り捨てたくらいだ。
メイコ先輩は私の心中なんかさっぱり無視して、通話を再開した。
「あはは、ごめんごめん。流石にお互いムチャぶりだったわね。で、どうしたの。……ん、長くなるって?」
メイコ先輩はケータイを耳から離し、その通話口を手で押さえた。
「ごめん、ちょっと席外すわね」
そう言って、ファミレスの待合席のある方へと移動していった。
私はそれを呆然と見送ったけれど、急にフツフツと怒りがこみ上げてきた。
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