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私もさりげなく人の旦那をこき下ろしながら、あ、ピザ来ましたよ。と、彼女に皿を差し出す。
「あ、やっと来たのね。……ふふ、いいわねぇ、この色、この香り。美味しそう」
メイコ先輩が正気とは思えない発言をしながらピザに手を伸ばすのを、私は笑顔で見守った。
んっふっふふふ。さぁ、食え!
そして泣け!
叫べ!
悶絶するがいい!
んっふっふふふ…………
…………あれ?
「ん~、なにかちょと物足りないわねぇ」
メイコ先輩はタバスコをさらに二~三滴ふりかけ、ピザにパクついた。
「タバスコは充分だけど、なんか辛さに深みが足りないっていうか」
「……」
「あ、そうだわ。七味よ、七味」
七味唐辛子の瓶を手に取り、パッパッパ。
うぇ、見てるだけで目や舌が辛くなってきそう。
メイコ先輩はそれを一口で食べて、満足そうな笑みを浮かべた。
「うん、これこれ。美味し~。ミクもどう?」
「い、いえいえいえ。私もうお腹いっぱいですから、先輩どうぞっ!」
「そう、残念ね。でもさ、ミク。さっき電話断った時もそうだけど、あなたのその引っ込み思案なところ、昔から変わってないわね」
余計なお世話だ。
というか、彼女の方こそチャレンジ精神が旺盛すぎて味覚をぶっ壊してしまったんじゃなかろうか。
汗ひとつかかずに超激辛ピザをたいらげるメイコ先輩の姿に、私はむしろ冷や汗をかいていた。
ピザ一枚をあっさり食いつくし、指先まで舐め尽くしたところで、彼女はケータイを見た。
「あら、そろそろ子供の塾が終わる時間だわ。迎えに行かないとね」
そう言って、なんのためらいもなく伝票に手を伸ばした。
「今日は楽しかったわ、ミク。会えて嬉しかった。だから、今夜は私におごらせてね」
「え、あ、その」
うわぁ、専業主婦に独身淑女がおごられるなんて、ちょっと恥ずかしいぞ。ここはせめて割り勘ぐらいには持ち込まないと。
そう思って、私は慌ててバッグから財布を取り出そうとした。
その時、財布を入れていたバッグの片隅に、あるものが大量に入っているのを見つけた。
それは、何枚もの名刺の束。
しかもどれも華やかな装飾がついている上に、そこに書かれた名前も「綾小路 リョウ」とか「清涼院 ライ」とか、「涼風 ショウ」とか、無駄に華やかなものばかり。
そう、ホストクラブでもらった名刺の数々だった。
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