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ガタン、ゴトンと揺れる夕方のラッシュアワー。
ガタン、と電車がひとつ揺れるたびに、車両の中にすし詰めになった乗客たちも揺さぶられ、
ゴトンと揺れるたびに、人垣の波に私は肩を押され、となりの少年に身体を押し付けてしまった。
「大丈夫?」
「う…うん。だって、君が守ってくれたから……」
ってな甘酸っぱいやりとりを交わしているのは、私じゃなく、隣の少年少女のカップルだ。
私はといえば、その少年を背中を押す側になってしまっている。
少年が乗降口そばの少女をかばって、両腕と両足に力を込めて背中を押す私の体重を受け止めている姿が、痛々しくも実に健気だ。
自分のためにここまでやってくれる少年が目の前にいたら、そりゃ惚れるのも無理はないわなぁ。
で、その惚れてると思われる少女が、少年の肩ごしに、その背中を押す私を非難がましい目で見ていた。
もう、そんな目で見ないでよ。私だって好きで押してるわけじゃないんだからね。
またガタンと電車が揺れて、またゴトンと私は人波に流され少年の背中を押した。
……これじゃあ、私ばっかり悪役だわ。
電車が駅に停車し、乗車口が開く。
私は人波の圧力に抗いきれず、降りたい駅でもないのにホームへと押し流された。
私が再び乗り込もうとするよりも先に新しい乗客がドッと押し寄せ、電車はあっという間に超満員に戻ってしまう。
あ~あ、なんだかなぁ、もう。
私は乗車する気も失せ、走り去っていく電車を見送った。
そのままホームへ目を移すと、さっきの少年少女のカップルが、手をつなぎ合いながら改札へ向かっていくのが見えた。
あ~あ、本当に、なんだかなぁ、もう。
ああいうのを見ると複雑な思いになる。
自分と相手しか見えていない、二人の世界。
あの少女が私に向けた非難がましい視線を「若いっていいわねぇ~」なんて言葉で流せるほど、私は歳食っちゃいないし、
かと言って、あの若い二人の恋に特別共感して応援してやるほど、恋に夢見るような歳でもない。
言っとくけど、若いうちの恋なんて長続きしないものなんだからね。
まして初恋なんて、あっという間に破れちゃうんだから。
心うちでカップルの背中に毒づきながら、私も改札を通り抜けた。
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