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本当はここで降りる駅ではないんだけど、今日はなんだかムシャクシャするので、ここら辺で飲んでから帰ろうと決めた。
ホームを出ると、見慣れない街並みの、見慣れない繁華街が広がっていた。
狭い通りに、ごちゃごちゃと店と人間が溢れかえっている。
駅前に伸びる歩道の一部は自転車置き場になっていて、大量の自転車が隙間なくびっちりと並べられていた。
人ごみのせいもあって、自転車に占められた歩道は非常に歩きづらい。
私は何度か自転車に躓きそうになって、むしゃくしゃしているせいもあって思わず自転車を蹴り倒してしまいたくなったけど、
ちょうどすぐ近くに交番なんかがあって、そこでお巡りさんが怖い目をして通りを見ているので、私は肩を狭めてこそこそとその前を通りすぎた。
そこからすぐ先に、派手な看板が軒を連ねる通りがあった。
私はそこを覗き込み、大量の看板の中に、ホストクラブらしきものがいくつか並んでいるのを見つけた。
「んっふふふ……」
私は友人からよく「淑女の笑い」と言われる笑みを浮かべながら、財布の中身と預金通帳の中身を思い浮かべた。
うん、二~三日ふりかけご飯で我慢するなら、今夜もホストクラブの一件ぐらい回れるわね。
たまには新しい街で、新しい店を開拓するのも悪くないものよ。
私は自転車が並ぶ狭っ苦しい道を、駅に向かって引き返し、そこにあるATMでお金を引き下ろした。
増えた財布の中身と、減った預金通帳の数字にドキドキしながら、ATMから離れようと振り返る。
「え……もしかして、ミク?」
「はい?」
私の後ろで順番待ちをしていたらしい女性が、振り返った私を見て、驚きに目を丸くしていた。
「え…と、どちらさま――って」
誰だっけ、この女性?
と、少し迷ったけれど、すぐに記憶の歯車が噛み合わさった。
「め、メイコ先輩!?」
「そうよ。よかった、やっぱりミクだったのね」
そう言って、ショートカットに地味目な服装の彼女は、化粧っけの薄いその顔に笑みを浮かべた。
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