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列車の窓から衛星ビームがちらりと顔を覗かせた。その先にはDEX01fに汚染され尽くした太陽系第三惑星。その脇を、クルーたちを載せた惑星調査船が通りすぎていく。
「たとえば、特異点だとか」
彼はそう言う。やはりあなたは彼をどこかで見たことがあるような気がする。
当然彼はあなたが思い描く彼自身ではなく、しかし同時に彼自身でもあるようで、ちょっと何かが絡まっている。
超対称性粒子のような、鏡合わせの向こう側の鏡合わせ。アリスのように、あなたは物語の境界を通り過ぎて行く。
「つい先程、全位相還元型無理数Р時間前に、未来軸方向から通信が入った。遠く離れた惑星群のコロニー代表と名乗る少女曰く、あらゆる物語の『始まり』が焼き落ちている、と。過去軸方向については、自殺願望持ちの少年がメッセンジャーとなったことで対策が進められている」
これはストローの声。声帯など無かろうと、物語は綴られていく。彼によって、声なき声は拡散する。身体中が傷だらけの女性型ロボットが無表情のまま通路を通り過ぎ、ドアを開けて汚染された惑星へと落ちていく。
「我々は崖っぷちなのだよ。五分で終わる物語は、我々には窮屈すぎる」
ストローは語り、段ボール箱はただそこに在る。でも、その中にあるのが特異点か少女なのかは、決してあなたにとって知られることなく記述されている。
隣を見れば、窓の外の暗闇を眺めていた彼はこちらを向いて穏やかに会釈するだろう。
「そう、特異点は常にあなたの傍に在る。普遍かつ絶対的に。だけど、物語の一ページ目をスワップインしなくては、この物語(universe)は始まらない」
宇宙が、あなたの頭の中に存在するあなたという物語(universe)が、誰かに語られ、誰かへ語られ、そうして会話(interactive)されることによって相互干渉(interactive)されていく。そんな物語。
世界線を掻き混ぜ、捻じ曲げ、思うがままにいじり倒し、この宇宙(universe)を内包する宇宙(multiverse)を記述する物語(universe)。
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