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「さあ、答えてください」
あらゆる語られ終えた物語の揺らめく中で、あなたと彼は向かい合う。
「さもなければ、わたしは物語の一ページ目を、始まりをなかったことにしますよ」
Question.特異点はどこか。
その質問に対するアクションとして、ここであなたに許されている選択肢は以下の四つしかない。
一、ページを遡って比較的理解しやすそうな場面から読み直す。以下それを繰り返す。
二、本書から目を離して伸びをする。仮眠を取ったり、本書を一旦忘却することも可。
三、字面だけを眺めて意味は探らずに読み飛ばす。即ち本書をただの記号列とみなす。
四、意味が分からないと叫び出したいのをぐっと堪え、我慢してこのまま読み進める。
もちろん、各々好きなものを選んでもらって構わないけれど、僕が指を鳴らしたら速やかにその通りに実行してほしい。
そして僕は指を鳴らす。
おかえりなさい。
この一言は全ての選択肢に対するあなたへの応答として解釈可能で、その理由を以下に記すとこうなる。
一、を選択した場合は文脈を探しに過去へ遡行していたはずだから、「おかえりなさい」の一言は現在への回帰を祝うものとして。
二、を選択した場合においてはそもそも本書自体から離脱していたのだから、「おかえりなさい」の一言は本書への回帰を喜ぶものとして。
三、を選択した場合──そもそも選択肢の分岐前から読み飛ばしていた場合も同様だけど──語られる言葉は「おかえりなさい」だろうが何でも構わない。
四、を選択したならば、たとえなぜ「おかえりなさい」と語られたのか、その意味が理解できなくとも我慢して読み進めてもらえるので、以上の説明で「おかえりなさい」という一文が書かれた理由を納得してもらえば問題ない。
この検証によって「全ての語られた物語」という物語(metaverse)の可能性と不可能性が立ち現れる。
一つは、さもこちらが現在進行形であなたへ直接語りかけることができる。あるいは、こちらからあなたを確認することができる。
と、思わせることができるという意味での可能。その一例を挙げてみるとだいたいこんな感じだ。
あなたは今この文章を読んでいる。
そう言ってしまえば、あなたはきっと紙面の向こう側からあなたを覗き込む二つの目があるように感じるだろうということで、程度の差はあれどその感触こそが物語の力だ。
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