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全長三千万キロメートルの超巨大ラッセルが、この物語はもうダメだと、太陽系を卵みたいにぐしゃりと潰そうとする。ウィトゲンシュタインが空から降ってきて、地球のために全ネコ科の動物に超能力を与えた。アインシュタインが地殻より深くにブラックホールを作るかもしれないから、警戒を怠ってはいけない。
そうして彼らの激闘の末、世界の平和は保たれた訳だ。ハッピーエバーアフター。
だけどやっぱり続編制作のために都合良く五分後のラッセルがやってきて、マイナス五分後の自分と仁義なき戦争を繰り広げていく……。
僕という特異点が先に在ったのか、あなたの意識が先に在ったのか。もう確認しようがないほど、ほつれたメビウスの輪ではあるけれど。
その輪の中には必ず、五分前のラッセルが丸まっているのだ。
ラッセルという登場人物が。
ここであなたがラッセルを主人公とした物語を書いたとして、その手記がラッセル自身によって書かれたという設定であった時、その作者は一体誰かという問いが残る。
当然、作者は自分だろうとあなたは考える。しかしあなたの中のラッセルはもちろん自分で書いたのだと主張して、自分のことを自分以外の人間が書くというのは何か途方もない詐術が働いているに違いないと述懐する。
同時にあなたもまた誰かの物語であるはずで、つまりはラッセルが書いたような物語をあなたが書くという物語を書いた人物、というものまで想像するともはや何が何だか分からない。
あるいはこうだ。
ラッセルってなぁ、誰だ。そんな疑問を抱いたラッセルは自己を確定するための物語を描き出し、そのためにラッセルを記述するあなたを生み出した。
あなたの暮らしている宇宙はラッセルによって五分前だか五行前だかに生み出されたものであり、あなたはラッセルに観測されながらラッセルを観測する。した。している。しようとしている。まさかしなかったとでも。
もちろんこれは、あなたがラッセルではないと仮定した場合の話なのだけど。
あらゆる仮定に従って、世界の配列はインナースペースへ溶け出していく。すべての時間軸において五分前に生まれたすべてのラッセルが、物語であるために執筆され、執筆していくように。あなたもまた物語を綴っていく。綴られていく。
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