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しかし、始まりのページだけが、どこかの次元へ落丁してしまった。循環する物語において、始まりは誰にでも、ラッセルにでもあり得る。
「すべての可能な文字列に、それは含まれている」
何者かが、あなたの耳元でそっと囁く。白紙のページが白紙には見えなくなったように、彼もまたあなたには見えない。あなたがタイプライターで綴った物語次第ではもしかしたら、彼は僕なのかもしれない。もちろん、あなた自身だったかもしれないけど。
真っ白な空間に、一筋の亀裂。瞬間、あなたはここが卵殻の中だと悟る。殻が割れて、卵がその空洞を露見する。亀裂から先は非標準位相亜空間a-z軌道だ。次のverseはすぐにやって来る。
始まりにあったのは、あなたか、僕か。始まりを失った物語において、いくらでも改竄されるだろう解答。あなたがこれから語る/語らないユニバースに、それが含まれているかどうか、僕は記述できないけど。
でもきっと、それはラッセルではない。
僕の頬を涙がつたっているかどうか、描写されようがないから分からないけれど、ささやかな喜びとともにあなたを送り出そうと思う。
では、ヨーグルトの雨に気をつけて。ストローとは仲良くすること。保育士達には喧嘩を売らないこと。林檎を見ても手に取らないこと。死神の仮面を剥がさないこと。巫女には嘘をつかないこと。
他にもたくさん注意事項はあるんだけれど、それらは向こう側では明白なので、打ち止めにする。
だから僕は暫しの別れの言葉の代わりに、ここにささやかかつ絶対的に在ることによって、せいぜい特異点らしく振る舞うことにしよう。
そして、最後の最期の始まりに、あなたは一歩を踏み出した。
{/spelled}
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