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灼熱の中、甲高い音が鳴り響く。一人の男が、汗を滲ませながら、黙々と鋼を槌で打ち続ける。名を郡葛 仁(こおりかずら じん)という。14歳の青年はひた刀を打つ作業に没頭していた。身なりは粗末で、汚れた作業着は甚平を重ね着しただけの物である。
手に出来た血豆は潰れ、その上からさらに出来た豆も破け、火傷の数は露知れず。それでも尚、ぼろぼろの手で打ち続けられるのは何故か。それは友の存在が大きい所だ。作業場の扉は乱雑に開かれ、挨拶も無しにずかずかと中へ入る。この青年の名は小春 陽介(こはる ようすけ)。年齢は同じ14歳、苗字の愛らしさを本人は嫌っている。ちなみに平生の彼からは粗暴な様子は無く、今は苛立ちが彼の行動を乱暴にさせているのだ。
「仁、もういいよ。刀いらないから遊ぼうよ。」
「嫌だ。俺はこれを仕上げる。」
きっぱりと断る仁の一言に、陽介は堪忍袋の緒が切れた。
「そんな事言って、これでもう何回目?一体いつ出来るのさ。形にもなりゃしない。出来たってなまくらじゃんか。」
「うるさい。気が散るからあっちへ行け。」
「そう、じゃあいいよ。勝手にやってれば。」
陽介は作業場を飛び出して村を歩く。村は大国同士の国境にあり、さほど賑やかではない。秋特有の枯れ葉混じりの乾いた風が吹き、村の寂れ様を引き立たせる。
大国は高山(こうざん)、泰靖(たいせい)、九稀(きゅうき)、燕火(えんか)、舞倉衣(まくらい)の5つに分かれている。各国が対立関係にあり、細かく言えばさらに国内の家毎に派閥がある。いつ戦が起きてもおかしくない状態なのだ。。
ここ、縁村(えにしむら)は高山国と九稀国の境にあり、どっちつかずの状態だ。時折両国から味方につけようと村に来ては勧誘を繰り返し去って行く。戦に巻き込まれるのは御免だと村長は毎回追い返していた。
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