序章 産声

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飛び出した陽介は村の隅にある林へと足を運ぶ。そこで適当な木の枝を選んで手にした。彼はここで剣術の練習を毎日しており、日課となっている。 陽介が怒る訳、実の所仁が作った真剣は数多く存在した。出会って間もなく鍛冶を初め、それ以来できた真剣は全て陽介が扱っている。が、直ぐに刃こぼれを起こし、そこから折れてしまう。決して刀の出来が悪いわけでもなく、陽介の扱いが悪いわけでは無い。初めこそ目を輝かせて喜んでいたが、それを繰り返す内段々と仁に対して当たりが強くなり、出来上がる事に期待をする事も無くなる。そんな日々に陽介はうんざりしていたのだ。 いつになったら刀が出来るのさ!村の人もおかしい。村のみんなは武器無しに何であんな悠々と暮らしてるの?いつ戦が起きてもおかしくないのに。少しでも剣術の修行をして守れるようにしとかないと。 陽介は心の中で一人ごちる。 怒りを沈め、目を閉じて深呼吸をする。それをしばらく繰り返し、ゆっくりと目を開く。普段温厚で優しい顔立ちをしているが、眼は鋭く、視線が合えば恐らく同一人物とは思えない。瞬間、木々はざわめきを止め、周りの空気が一転する。静寂に飲まれる、と言うのか。剣気(けんき)と呼ばれるそれは、その人の剣客としての技量の表れである。単純な力や技術だけでなく、精神力もそれに左右される。一枚の葉がひらひらと上から落ちてくる。それが陽介の眼前へ来た瞬間、綺麗に真っ二つに。陽介は剣気だけでそれをやってのける。 「よし・・・・・・行くぞ!」 周囲の木を相手に見立て、手にした木の枝で打ち込む。それをひた繰り返すのが修行内容である。一見単純なようだが、1本の木を打ち込むのではなく、林の全ての木を打ち込むので、容易では無い。恐ろしく速く、確実に首辺りを打ち込んでいく。この修行の為か、陽介は対多人数に秀でていた。更には途中で木の枝が折れ、瞬時に使えそうな新たな木の枝を手にして居ることから、武器をすぐに見極める能力も養われており、実戦で刀が折れたとしても倒した相手の刀をすぐに物にしてしまうだろう。木の枝は一定の重さ、太さでは無いことから1本1本が全く異なる武器だ。それでも何も変わらず打ち続けられるのはその力が存分に発揮されている証拠だろう。 林の木をすべて打ち抜くと、次は懐から手ぬぐいを取り出し、目隠しして打ち抜く。
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