序章 産声

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ただ、これは地理を記憶しているだけでなく、剣気で気配を察し、目を開けている時と変わらず縦横無尽にかけながら打ち込んでいく。終いには陽介は音を消し去る。自然に溶け込むように、呼吸する音が消え、足音が消え、打ち込まれた時の音だけが林中に木霊する。 辺りが薄暗くなる頃、修行を終えて仁の居る鍛冶場、基家へと歩みを進めた。秋のやや乾いた風が、修行で疲労した身体を撫でる。 さっきは感情的になってしまったけれど、怒ってはいないだろうか。しまったな。 家の戸を前に、開けるのを渋ってしまう。窓からは明かりが漏れており、そこから食欲をそそる香りが漂っていた。 不意に戸が開き、陽介の腹が音を上げたのは同時だった。 「・・・・・・そんな所で何してんだ。冷えるぞ。飯できたから早く食べよう。」 「仁・・・・・・その、さっきはごめん。」 「あぁ、気にするな。」 仁は顔色も変えず、全く気にしてない様だった。 「刀は・・・・・・出来た?」 思わず、聞いてしまった。気になっていたのだ。刀を打ち続けて9年は経とうとしていたのだが、未だに満足のいく物は出来ていない。 仁は滅多に見せない笑みを浮かべ、静かに頷いた。 「飯が終わったら見てくれ。いい一振りだぞ。」 「ついに・・・・・・ついに出来たんだね!俺が試し斬りしてもいい!?」 「お前以外に誰がやるんだ。」 刀が出来て興奮した二人は、夕食をかき込み直ぐに試し斬りの準備に取り掛かった。
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