序章 産声

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夕飯を終えた2人は、試し斬りをする為に家を出て林へと向かった。 大木をノコギリで切り倒し、2列3段に並べる。 「大木の幅は刀身とほぼ一緒の幅だ。なまくらじゃなきゃ斬れるね。」 「もしくは芋侍じゃなきゃな。」 お互いに皮肉を言いながら笑う。根拠は無いが、この刀は本物、全部とは行かなくとも確実に半分は斬れると確信していた。 陽介は刀の柄に手を添えて構えた。 目を閉じて深呼吸し、柄を握る。静寂が訪れ、隣にいる仁は全身の毛が逆立ち、剣気を嫌という程感じていた。 陽介の剣気は相変わらず恐ろしい。対峙したら立つことすら敵わんな。どっかの国に属したら間違いなくその国で一番の剣客だろう。 鯉口を斬り、ゆっくりと抜刀、刀身が月に照らされ静かに煌めく。開眼の刹那、上から下、袈裟斬りを大木へと放つ。 果たして大木は音もなく斬れた。ひとつ残らず全部真っ二つ、刃こぼれは無い。陽介は斬った抵抗すら感じなかったこの刀に驚愕する。 今までなまくらって言われてた奴だって斬れない訳じゃ無かったけど、この一振は今までとは段違い。ただ俺の力と速さに付いてこられなかったんだな。仁は国一の鍛治職人に違いない。こんな刀打てるのは仁だけだ。 「仁、これは正真正銘真打だよ!!」 「まさかここまで上手く行くとは思わなかった。」 仁は素直に陽介に褒められ、思わず拳を握る。 「名は?つけなきゃこの刀に申し訳ないよ。」 「そうだな。どうするか・・・・・・。」 暫く思案する仁だったが、中々良い名が浮ばずにいると、陽介が笑顔で、 「俺が決めていい?初志空刃(しょしくうじん)なんてのはどう?初めての一振、始まりを志と解く。空刃は大木斬った時、空を斬った様に感覚が無かったから。」 「(空を切ったように感覚が無かったのは陽介の実力もあるだろうが、まぁいいか。)良い名だ。それにしよう。」 こうして試し斬りを終えた2人は、夜が耽る前に床についたのだった。
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