序章 産声

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翌朝、陽介は早起きして林に行き、刀を振るう。初めてまともに真剣を振っているが、様々な枝を扱ってきた為、すぐに馴染み始める。 極めるって領域にはまだ達した事無いんだよなぁ。この刀は間違い無く共に過ごす時間が長い。この刀が初めて極める刀になるだろう。仁が打ってくれたこの初志空刃・・・・・・大切にしよう! 陽介は平生以上に気が入り、ひたすら刀を振るう。時を忘れ、刀の重さを感じなくなるまで、振り続ける。 一方その頃、仁は鍛冶場で刀を研いでいた。集中しており、汗が滲む。鋼を研ぐ音がこの場を支配し、見る者がいれば思わず息を呑む光景である。作品を作る時は無心に。雑念は刀に込めてはいけない。 憎悪、利益、見返り、愛情、全て鍛治職人においては雑念でしかないのだ。ただ無心に、それが仁の刀作りへの信念である。書物から独学で刀を作る事を覚え、きちんと人から教わったことは無い。ただ、刀は人を傷つける道具である事は理解しており、そこに雑念が乗れば傷つく人が増えるだろう、と考えた結果が無心、であった。 「今日も精が出るな。今日は客として来たんだが、その一振りを貰おうかな。」 「これは勝原殿、失礼しました。刀の研磨に集中していて・・・・・・。」 いつの間にか客として来ていた町の名家、勝原忠幸(かつはらただゆき)が玄関で顎を撫でてこちらの様子を見ていたのである。 勝原は仁と陽介の為に鍛冶場と家を用意してくれた人・・・・・・中年の村長である。実は2人はまだ物心つく前に親を無くしており、たまたま道中に2人が出会い、この村についた。事情を知った勝原は2人を村に置く事を決め、今に至る。 「まだ刀が出来るまでかかるので、こちらから渡しに行きますよ。」 「いや、良い。此処で待っている。気にするな。」 仁は手を休めること無く、受け答えする。その当たりは流石に職人である。村に来たばかりから、既に職人としての風格を持っていた。 「相変わらず年不相応な奴だな。それが仁らしいと言えば仁らしいが。」 昼を過ぎてようやく刀が出来上がる。初志空刃真打と同時に打っていたこの刀は影打だが、真打と比べても遜色無い出来である。
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