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「この刀は初志空刃、と銘打っております。」
「これまでのも素晴らしい一振りだったが、これはまた・・・・・・確かに今までの物とは切れ味も強度も比べ物にならないくらい秀でている様だ。」
勝原は刀を手にしてじっくりと見ながら、初めて作った刀を買った時を思い出していた。あの時は真っ直ぐな刀すら出来ず、試行錯誤を繰り返して、永遠に出来ないのでは?と折れかけていた時もあった。
いつの間にか村では収まらない技量に達し、今も尚成長を続けている。正直、国の城下町で門を構えて商いを始めても良いのでは、と考える。我が子のように見守っていただけに、ついつい情が湧いてしまう。
こちらの心情を余所に、怪訝な表情で仁が口を開く。
「この刀は正直な所、出来が良すぎて値をつける事が出来ません。故に、貰ってはくれませんか?」
「これをか?世に出れば名刀と呼ばれるやもしれぬぞ?」
「まさか!俺の刀は未熟そのもの。名刀とは程遠い。まだ高みは見えません。」
驚く仁を見て、まだまだ世間知らずなのだと感じ、それは一つの欠点であるとも思った。世に出回っている刀なぞ、とうの昔に超えている。
「謙遜は良い。斬れる丈夫な刀を名刀と言わずして何と呼ぶのか。・・・・・仁、世に出回っている刀を見た事はあるか?例えばワシが下げているこの刀。これも名刀とまでは行かないが、斬れる一振りと高山国で名を上げた。」
手にしていた初志空刃を丁寧に壁に立てかけ、自身の一振りを仁に渡す。
「抜いてみよ。」
仁はその一振りを受け取り、眼前で鯉口を切る。上へと数センチ抜刀。目を凝らして刃を見抜く。
これは・・・・・・俺が村へ来て2年位でも作れた様な刀だ。こんなものが名を上げたと言うのか?
「それを床に置け。」
困惑しながら言われるがままに置くと、勝原が初志空刃を、抜刀。そして甲高い音と共に、自身の一振りを断ち切った。初志空刃に刃こぼれは一つもない。
「とまぁこんなものだ。ワシが思うに・・・・・・。」
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