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猛烈な血生臭さを漂わせながら男の遺体が発見されたのは、夏の蒸し暑い日のことだった。
ここは翠央市内にある、翠央西第二小学校。翠央市の中心部から西に程なくしたところにある小学校である。
街中に建てられているので校庭はさほど広くはなく、自然らしい自然もないが校舎の隅には全長十五メートルほどの大樹が植えられている。
確かこの木は卒業生から寄贈されたもののはずだと、大樹の陰に立っていた男――翠央警察本部捜査一課所属であり、この小学校の卒業生でもある江口寛和はじっと大樹を見上げていた。
大樹の木々の隙間からは真夏の太陽光が注ぎ、このうだるような暑さと眩しさに江口の表情が僅かに不機嫌そうな色を帯びる。
江口は黒色の背広姿、世間でいう正装である。百八十センチほどの背丈とすらっとした長い脚、涼しげな短髪の毛先には汗が滴っていたが、スラックスのポケットに入れておいたハンカチで額を拭くのもこれで何度目か。
「……くそ……」
綺麗に四つ折りに折られたハンカチをポケットに突っ込みながら江口はぼやく、その表情は不機嫌そのものである。彼は一年の中でも夏という季節が特に嫌いだった。寒さならば衣服を重ね着する等の防寒対策が取れるが、夏の暑さだけは服を脱いだところで解消されることはない。
夏生まれは夏に強いという噂話を聞いたことがあるが、真夏生まれの江口にしてみればそんなことは嘘だと声高らかに叫びたかったが、生憎叫ぶ体力すら勿体ない。
子の国の警察組織の中枢に位置する翠央警察本部、そのなかでもずば抜けた検挙率を挙げている江口は、若干二十七歳ながら既に周囲から恐れられる存在になっていた。
そんな江口に唯一勝てないものがあるとすれば、夏の暑さ――夏の生暖かい風が頬を撫で、江口の中にある不快指数が心なしか上がったとき、江口の背後から声が掛けられた。
「ガイシャの身元は東野信吾、二十八歳。江口さんはご存知だと思いますが、ここの卒業生のようです」
「……」
声に反応するように、静かに背後を振り返った江口が捉えた男は榊高臣。同じ係に所属する、江口の部下にあたる青年である。
江口は真夏の背広姿にも関わらずこの通り表向きは涼しい顔をしているが、後輩の榊は暑さに耐えかねたのか、いつの間にかジャケットを脱いで半袖のワイシャツ姿に変わっている。
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