第1章

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 訳有の明神はとにかくとしても、普通の新人なら佐野のような反応をするのが普通であろう。暫くは遺体の残像がフラッシュバックして眠れない夜が続くと聞くが、そんな彼らを前にしても江口はあえて気遣うようなことは言わない。  見たくないものから目を背けるのは勝手だが、そうすることで自分の足手まといにはなって欲しくない。それどころか足手まといになるくらいならさっさと身を引いて欲しいとすら思う。  江口らが所属する翠央警察本部限定で『若年研修制度』が実施され始めてから今年で数年。  警察学校での過程を最小限に抑え、即戦力として各課へ送り込む飛び級制度、いわば若いうちから逸材を育成しようという試みであるが、江口をはじめ榊、佐野、明神とその制度により捜査一課に配属された経歴を持つ。  もっとも、そんな制度が始まったのも若いうちから江口を前線へ送り込むための理由づけだとも言われているが、真相は定かではない――ただ一つ、確かであることは江口の父親は警察組織の重鎮であるために息子である江口の暴挙に皆口を出せないということだけだ。  ちなみに、警察本部内での江口の評判は極めて悪い。刑事としては一流であることは誰一人として文句は言わないが、彼の人間性には大きな問題があるから――やがて、江口は二人の隣に立つと改めて遺体を見下ろした。  うつ伏せの形で頭部から血を流して倒れている男は今や変わり果てた姿になっているが、風貌は佐野のような明るい風貌の青年であろう。  夏らしくTシャツにハーフパンツといった格好の彼だが、そんな彼の両足首は鋭利な刃物で切断されており血まみれの断面が目に入る――ただ、そんなクラスメイトを見つめる江口の眼差しは冷たい。 「江口さん。あの、鑑識に聞いたんですけど、ガイシャは江口さんの同級生だそうですね。江口さんもこの小学校出身だとか……うっ」  やがて、遺体が担架に乗せられて運ばれていく際、担架から零れた右腕がだらりと垂れ下がる、そんな様に佐野は露骨に顔色を悪くしているなか、江口はじっと先ほどまで遺体が倒れていた地面をじっと見下ろしている。 「……ああ、そうみたいだな」 「……みたい、ですか?」
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