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Scene 4
「おっはようマユちゃん!」
「うんおはようチアキ死ね」
「わー。マユちゃんの毒舌にいつもみたいな冴えがないー。というかなんのひねりもない単なる罵倒だー」
「クソが。リア充め。もげろ」
「わー。それどっちかというと男のひとに向けた罵倒だー」
あの、はたから見れば喜劇でしかなかったであろう告白劇のあと。
それまで夕月先生のことをなんとも思ってなかったはずのチアキが、まさかの一発OKしやがりまして。
「いやー。あゆむくんに告白されたあの瞬間! わたしズビビビッときたわけですよまさに。燃え上がる恋心だね! 暗黒の純情だね!」
こうして、晴れて2人は公認カップルとなり、実に初々しい感じの王道なお付きあいを日々しくさりやがっている。
私は夕月先生のことをこの部屋の窓から眺めていたわけだけど、チアキもよく一緒に夕月先生のことを見てたりしたわけで。
夕月先生の側から見れば、「となりの棟の窓からいつもこちらを見ている女の子」は、私じゃなくてチアキにも当てはまる話だったわけで。
ちなみに、例の小説の、ファンレターのくだりは丸々創作だった。チアキがそれとなく聞いてくれたが、私の名前は憶えてない様子だった。
そりゃそうだよね! たとえ現実のできごとを参考にした小説でも、あくまでフィクションだもんね! 相手はプロの作家様だもんね! 話を盛りあげるために脚色とかするのあたりまえだよね!
「チアキの皮を剥いで被れば、私も夕月先生と仲良くなれるかな……?」
「ストップ。マユちゃん、発想がナチュラルに猟奇的すぎてヤバい。せめてクズ野郎のところまでレベルを落とそう。ガチで引く」
はぁ……。
告白があった当初は、もう恥ずかしいやらいたたまれないやらで気が思いっきり動転してしまい、今すぐこの世から消えさりてえええもしくは私を過去に戻してえええええと悶え転げまくったものだったが。
冷静に考えてみると、夕月先生にとって私は最初から眼中になかったわけで、これは私の痴態もまた夕月先生にいっさい伝わっていないことを意味している。
要は、私をとりまく環境は、私の気持ちの問題を除けば、以前となにひとつ変わっていないわけだ。
どころか、夕月先生のペンネームの由来を知れたことや、夕月先生の未★発☆表★短☆編をいくつも入手できたのは、明らかにプラスどころか、私にとっては一攫千金の価値があるできごとだ。
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