0人が本棚に入れています
本棚に追加
Scene 1
――などと、つい数時間前に私にのたまっていたチアキが、今どうしているかというと。
「うわあああんっ! マユちゃあああああんっ!」
私の身体に思いっきり顔をうずめて、びーびー泣きじゃくっていた。
「はいはい。わかってるよ。好きなひとに振られたんでしょ。悲しかったんだよね。悔しかったんだよね。チアキの気持ちは私が一番わかってる。でもね、その苦しさが、いつか必ずチアキの力になるから。チアキは、きっとまたいつか恋をする。新しい運命のひとと、今度は絶対に幸せな結末をつかめるように。そのために、今は、泣けるだけ泣きな。涙が枯れはてて、最後の一滴を絞りつくすまでくらいなら、私がチアキのそばにいてあげるからさ」
「ぐすっ……。マユちゃん……」
泣きはらして真っ赤にそまった顔を上げるチアキ。
感極まった様子で、私にむかって大声で叫ぶ。
「そういうセリフは、小説を読みながら棒読みで言わないでほしかったよぉっ!」
「……っ。ちょっとチアキ、声でかい。うるさい。読書の邪魔」
「ひどいっ! マユちゃんが冷たいのはいつものことだけど、今日はいつにもましてひとでなしだよっ!」
「いや、そうは言うけどさ。何度めよ、このやりとり……」
この子の名前は、一之瀬 千秋(いちのせ ちあき)。
私と同じ高校2年生で、クラスは違うが昔からなにかと腐れ縁な間柄だ。
なんとなくわかるとは思うけど、チアキが想いびとに告白して玉砕して帰ってくるのは、なにも今回が初めてではない。
どころか、私の記憶がたしかなら、去年の秋にも、一昨年の中3の秋にも、これとほとんど変わらない告白劇があったはずだ。
彼女いわく、秋は恋多き乙女の季節なのだそうだけど、毎回つきあわされる身としては、ワンパターンすぎて飽きたというのが正直なところだ。
……というかまさか、チアキだから秋とでも言いたいのだろうか。ちょっと安易すぎるだろ、もうちょいヒネろうよ。
私は、興奮するチアキをなだめすかして大人しくさせると(このあたりも、もはや慣れたものである)、本を読みながら会話を続けてみることにした。
最初のコメントを投稿しよう!