Scene 1

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Scene 1

 ――などと、つい数時間前に私にのたまっていたチアキが、今どうしているかというと。 「うわあああんっ! マユちゃあああああんっ!」  私の身体に思いっきり顔をうずめて、びーびー泣きじゃくっていた。 「はいはい。わかってるよ。好きなひとに振られたんでしょ。悲しかったんだよね。悔しかったんだよね。チアキの気持ちは私が一番わかってる。でもね、その苦しさが、いつか必ずチアキの力になるから。チアキは、きっとまたいつか恋をする。新しい運命のひとと、今度は絶対に幸せな結末をつかめるように。そのために、今は、泣けるだけ泣きな。涙が枯れはてて、最後の一滴を絞りつくすまでくらいなら、私がチアキのそばにいてあげるからさ」 「ぐすっ……。マユちゃん……」  泣きはらして真っ赤にそまった顔を上げるチアキ。  感極まった様子で、私にむかって大声で叫ぶ。 「そういうセリフは、小説を読みながら棒読みで言わないでほしかったよぉっ!」 「……っ。ちょっとチアキ、声でかい。うるさい。読書の邪魔」 「ひどいっ! マユちゃんが冷たいのはいつものことだけど、今日はいつにもましてひとでなしだよっ!」 「いや、そうは言うけどさ。何度めよ、このやりとり……」  この子の名前は、一之瀬 千秋(いちのせ ちあき)。  私と同じ高校2年生で、クラスは違うが昔からなにかと腐れ縁な間柄だ。  なんとなくわかるとは思うけど、チアキが想いびとに告白して玉砕して帰ってくるのは、なにも今回が初めてではない。  どころか、私の記憶がたしかなら、去年の秋にも、一昨年の中3の秋にも、これとほとんど変わらない告白劇があったはずだ。  彼女いわく、秋は恋多き乙女の季節なのだそうだけど、毎回つきあわされる身としては、ワンパターンすぎて飽きたというのが正直なところだ。  ……というかまさか、チアキだから秋とでも言いたいのだろうか。ちょっと安易すぎるだろ、もうちょいヒネろうよ。  私は、興奮するチアキをなだめすかして大人しくさせると(このあたりも、もはや慣れたものである)、本を読みながら会話を続けてみることにした。
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