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「直情的なのはいいけど、さすがにさぁ……。もうちょっと、こう、恋愛の機微的なものがあるでしょうよ、チアキさん」
「だって、気持ちがあふれて止まんないんだもん! 全部がわーっとなって、他のことなんにも考えられなくなって、もうどうにも止まらないってあの感じ! 何事も経験なんだよ! いっつも恋愛小説ばっかり読んでて、本物の恋をしたことないマユちゃんには分からないよっ!」
「何事も経験」とか「本物の恋」とか、また頭の悪そうなワードが出てきたなぁ……。
もっとも、私が恋愛小説ばっかり読んでるのは、自他ともに認める事実だけどね。
私――真崎 友子(まざき ゆうこ)は、チアキと同じ高校2年生。
インドア派とか、読書好きとか、まあ端的に言ってしまえばそういう感じだ。もちろん、このへんはチアキとは真逆である。
学校のどこかに1人静かに本を読める場所はないかと探していたところ、運よくこの空き教室を発見。
それ以来、放課後は基本毎日ここに入り浸るようになって、今に至るというわけだ。たまに暇なチアキもくっついてくる。
これを言うと、図書室でいいじゃないかと思われそうだけど、なんだかんだで人目あるのよね、あそこ。
とくに、私が好きな恋愛小説には、アニメ調の表紙や挿絵があるタイプの本も多いので…………まあ、察してほしい。
「ぶっちゃけ私、おもしろい本を読みつづけられたら人生それで満足みたいなひとだからさー。小説読む時間が少なからず減るのを覚悟で色恋に走るとか、洗脳でもされないかぎりありえないと思うわけよ」
数百冊読んで1冊あるかないかの、私の感性どストライクな作品、あるいは作者。
そういうものに出逢えた奇跡の瞬間。あの圧倒的な喜びは、ほかの何物にも代えがたいし、そういうものに出逢うために私は今日も本を読む。
たとえば、まさに私が今読んでるシリーズの作者、井上 夕月(いのうえ ゆづき)先生なんて、ほんとに……もう……もうっ。
精緻で瑞々しい作風から紡ぎだされる作品、そのすべてが私の趣味どツボで、最近は私のドッペルゲンガー的ななにかなんじゃないかと疑っている作者様だ。
そんな夕月先生の作品を、私が初めて読んだのは、1年前にまでさかのぼる――――っと、これ語りだすと終わらなくなるので止めよう。閑話休題である。
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