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Scene 2
「やっほーマユちゃん、来たよー。……って、なにその顔!? めっちゃクマできてるよ、大丈夫!?」
「うふふ……。ちょっと最近寝れてなくてね」
引き気味のチアキに構わず、カバンから取り出したノートを広げてみせる。
「実は、大発見をしてしまってね……見てよこれ」
「ん? なにこれ、あゆむくんの名前?」
ノートには1行、「小野 歩」。
「これをまず、ローマ字に直します」
鉛筆を取り出して、「ono ayumu」と書き加える。
「次に、並びかえる」
「o n o a y u m u」が、「a y u u m o o n」に。
「それを、こうまとめる」
「a yuu moon」と書きこむ。
「『a』はそのまま『あ』、『yuu』は『夕』、『moon』は英語で『月』」
「あ 夕 月」。
「ひらがなの五十音表を考えると、『あ』は『い』の『上』にある」
「あ」が「いのうえ」に。
「いのうえ 夕 月」。
「井上 夕月」。
いのうえ、ゆづき。
「これって……」
「そう。『井上 夕月』という先生のペンネームは、本名の『小野 歩』をもじって生まれた名前だったのだよッ!」
私は、齢16にしてたどり着いた世界の真理を、チアキに突きつける。
「ペンネームと本名の両方を知るもののみが、いくつもの工夫の果てに至ることのできる、シンプルにして計算しつくされたたった1つの真実。読者への挑戦状とも違う、ほんの些細な作者のお遊び。だからこそ逆説的に、この真理に至れる存在は限られている。具体的にはこの世界で夕月先生と私しか知らない秘密かもしれないじゃないですかああああきゃーきゃーきゃー!」
あああまた興奮が再燃してきた!
やっばいテンション上がる!
まあ実際には担当さんとか家族とかも知ってるかもしれないけど、そのへんはスルーで!
「え、マユちゃんが最近寝れてないのって、まさか」
「うん。これに気づいて以来、興奮で目が冴えちゃってろくに眠れてない」
「……うへぇ」
だって仕方ないじゃないですかー。
トップクラスに好きな作家さんの、トップシークレット(?)を知ってしまったんですぜー。
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