Scene 2

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 ちなみに、あのあとチアキから聞いたところによると、夕月先生は、同じ文芸部員のひとたちにだけ正体を明かしていたそうだ。  部員たちはそのことを口外しないように言われていたが、チアキがたまたま部員同士の会話を耳にしてしまい、小野歩=井上夕月先生だと知った、とのこと。  くそう。なぜ私じゃなく、夕月先生の作品を1冊も読んだことのないチアキが。  と、思わなくはないものの、それよりも、こうして今私がその事実を知っていることに特大の感謝だ。  大好きな作家さんが実は学生でクラスメイトでしたなんて、創作の世界でしか起こりえないレベルの奇跡。  それが我が身にある幸運ときたら、もう。やっべー! 超やべー! 「ま、まあでも、良かったよね! マユちゃんも恋の楽しさに目覚めてくれたみたいだし、わたしもあゆむくんを紹介した甲斐があったよ!」  え、恋?  いやいや、これは違うでしょ。  好きは好きでも、この好きは有名人に対する好きみたいなもので、ラブというよりはリスペクトに近いものであって……。 「たしかに最近は、学校にいるときは気づけばいつも夕月先生を目で追ってるし、姿が見えないときは今夕月先生なにやってるんだろうなーってついつい想像してしまうし、家に帰ればもっぱら先生の作品を再読しながら学校での夕月先生の様子がフラッシュバックしてベッドの中で悶える日々を送ってはいるけれども、恋ではないでしょ」 「うんマユちゃん。まずは冷静になって、今のセリフをもう一度復唱してみようか」  …………。  …………。  ……あれ、これ恋か?  …………。  …………。  そうか……これが恋だったか……。  …………。  …………。  うん。恋って、実に素晴らしいものですね!
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