7人が本棚に入れています
本棚に追加
雨後の足跡
最近、家の近くで道路工事が行われている。そのせいで、雨の後は道のあちこちに赤土色の足跡が残るようになった。
大きいのや小さいの、普通の靴、長靴らしきゴムっぽい靴底跡、肉球に至るまで、泥でできた足跡がペタペタペタペタ…。
工事の車がやって来れば、タイヤに踏まれてほとんどが消えてしまう足跡達。朝の僅かな時間だけの痕跡。
その足跡の中に、いくつか奇妙なものが混ざっていることに気がついた。
丸っこい、馬の蹄のような形のがあるかと思えば、先細りになった二つ割れの、豚か猪の蹄みたいな足跡もあった。
犬や猫にしては大きすぎるし、微妙に形が違う気もする肉球跡もたくさんあるし、中には鳥の足跡らしきものまである。
世間より遅めの出社時刻の会社なので、工事の車が現れるまで観察はし放題。そう、少し早起きをして身支度さえ整えておけば、出社時間ギリギリまで、庭先で道行く人達を観察することも可能だ。
雨上がりの朝、いつもより早く起きて出社の支度をすると、私は庭から往来をそれとなく窺った。
大人、子供。勤め人や学生さん、色んな人が忙しなく右へ左へと行き過ぎる。たまに犬の散歩をしている人も現れるが、動物の姿はそれだけだ、他にはおかしな恰好をしている人すらいない。
なのに、作業車が来る寸前の、人通りが一瞬途絶えた道の上には、いくつもの、人間のものではない足跡が点在していた。
いつの間に、こんなにたくさんの動物が通ったんだ? …いや。それはない。私はずっとここにいた。行き交う人達を見ていた。おかしなものが通ればすぐに気がついただろう。
ということは。
考えている間に出社時刻が訪れ、私はすぐに意識を切り替えた。だけど考えは一日中脳裏にまとわりつき、天気予報は今日も夜だけ雨だというので、明日、もう一度同じことを繰り返して確かめようと思った。
だけどその翌朝。
最初のコメントを投稿しよう!