雨後の足跡

1/2
前へ
/2ページ
次へ

雨後の足跡

 最近、家の近くで道路工事が行われている。そのせいで、雨の後は道のあちこちに赤土色の足跡が残るようになった。  大きいのや小さいの、普通の靴、長靴らしきゴムっぽい靴底跡、肉球に至るまで、泥でできた足跡がペタペタペタペタ…。  工事の車がやって来れば、タイヤに踏まれてほとんどが消えてしまう足跡達。朝の僅かな時間だけの痕跡。  その足跡の中に、いくつか奇妙なものが混ざっていることに気がついた。  丸っこい、馬の蹄のような形のがあるかと思えば、先細りになった二つ割れの、豚か猪の蹄みたいな足跡もあった。  犬や猫にしては大きすぎるし、微妙に形が違う気もする肉球跡もたくさんあるし、中には鳥の足跡らしきものまである。  世間より遅めの出社時刻の会社なので、工事の車が現れるまで観察はし放題。そう、少し早起きをして身支度さえ整えておけば、出社時間ギリギリまで、庭先で道行く人達を観察することも可能だ。  雨上がりの朝、いつもより早く起きて出社の支度をすると、私は庭から往来をそれとなく窺った。  大人、子供。勤め人や学生さん、色んな人が忙しなく右へ左へと行き過ぎる。たまに犬の散歩をしている人も現れるが、動物の姿はそれだけだ、他にはおかしな恰好をしている人すらいない。  なのに、作業車が来る寸前の、人通りが一瞬途絶えた道の上には、いくつもの、人間のものではない足跡が点在していた。  いつの間に、こんなにたくさんの動物が通ったんだ? …いや。それはない。私はずっとここにいた。行き交う人達を見ていた。おかしなものが通ればすぐに気がついただろう。  ということは。  考えている間に出社時刻が訪れ、私はすぐに意識を切り替えた。だけど考えは一日中脳裏にまとわりつき、天気予報は今日も夜だけ雨だというので、明日、もう一度同じことを繰り返して確かめようと思った。  だけどその翌朝。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加