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部屋に残された私は、このあとに待っているであろう、患者と魔法医師による会話を憂いだ。
きっとこの腕のことを何度も、質問をかえて聞いてくるはずだ。私は、できればもっと深い関係になるような話がしたいのに……。
左手で、動く気配のない片割れを掴んで持ち上げ、グラスを落とすみたいに放してみた。
それを何度か繰り返す。
皮の長いすに座っていたので腕の落ちた先には膝があり、右腕は鈍い音をたてて衝突する。感覚は膝の振動と肩に掛かる微量な負荷のみ。
マリクが命をかけて深遠の森から持ってきた薬草は、服用することで右腕を再度動くようにしてくれた。
けれどその状態を保つには魔力の充填が必要で、ろくな魔法学を学んでいない初等学校出の私は、さっきやったみたいに左手から放出した魔力を右腕に充填するしかなかった。
付加魔法とやっていることは似ているかもしれない。まぁ、本当は肉体に対する強化魔法と呼ぶのが適切だろうけど、この右腕を持ってみればわかる。
これは紛れもなく「物」扱いが適している。
当然そんな魔法が、手のひらから火の粉を出すのさえやっとな私に、満足にできるわけもなく、マリクを困らせている。
自分の不甲斐なさが恨めしい。
せっかく大好きな彼が私のために危険を侵してまで採って来た成果だ。本当はもっと無理がしたい。
けれど……。
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