第1章

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 右腕に痛みが走った。チクチクするような、血が溜まって流れをせき止めているような、掻いても掻いても払拭できないような、そんな痛みが“1メートル先にある右腕の上腕部”を蝕んでいる。 「きた。……だめ、これ。あ……ぐっ」  部屋の奥にいるマリクに聞えないように、小さく短く吐いた息に乗せて呟いた。  左で右腕を掴んだ。腕はここにある。けれど痛みは遥か彼方で主張を続けている。 (ここにある。僕はここにいる。早く見つけてほしい)  そういっているから、私はあるとこないとこに視線を向けた。 「わかってる、わかってるの。“どこにもなにもないことは”」  巡らせた視線のなかで、だらしなく垂れたシルクのカーテンが見えた。  この前、この痛みの思うがままにさせていたら、いつのまにか、止めていた金具を壊してカーテンをひっぺがえしていた。  そのときの私はこの椅子に顔を埋めて叫んでいたはずなのに!  望んでもいないのに、痛みで描かれた腕の輪郭がはっきりとわかった。今日のは大きな剣の形をしている。  カーテンを壊したときは大きな鎌のように湾曲していた。でもこの前より今回のは大きさも長さもある。これはまずい。 (僕はここにいる) 「うるさい、だまって!」  気づかないうちに声が大きくなっていた。奥でこちらに近づいてくる足音が聞えていたが、今の私は気づかずに言葉を続けた。 「もうやだ!こんな腕いらないよ!やだ!やだ!」  ここからはいつものサイクルだ。痛みを恨むべき対象を探してのたうち回って、みつけたものは今は動かない右腕。近くにある棚やテーブル、蝋燭立てや置時計、なければ左の手の爪を使って自傷行為を始める。あとは痛みが治まるまで気違いなショーは続いていく……。  ほら、今度はテーブルの角で攻撃だ。左が、掴んだ右腕を振り下ろそうとした。 「やめろ!」                   ☆
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