0人が本棚に入れています
本棚に追加
右腕に痛みが走った。チクチクするような、血が溜まって流れをせき止めているような、掻いても掻いても払拭できないような、そんな痛みが“1メートル先にある右腕の上腕部”を蝕んでいる。
「きた。……だめ、これ。あ……ぐっ」
部屋の奥にいるマリクに聞えないように、小さく短く吐いた息に乗せて呟いた。
左で右腕を掴んだ。腕はここにある。けれど痛みは遥か彼方で主張を続けている。
(ここにある。僕はここにいる。早く見つけてほしい)
そういっているから、私はあるとこないとこに視線を向けた。
「わかってる、わかってるの。“どこにもなにもないことは”」
巡らせた視線のなかで、だらしなく垂れたシルクのカーテンが見えた。
この前、この痛みの思うがままにさせていたら、いつのまにか、止めていた金具を壊してカーテンをひっぺがえしていた。
そのときの私はこの椅子に顔を埋めて叫んでいたはずなのに!
望んでもいないのに、痛みで描かれた腕の輪郭がはっきりとわかった。今日のは大きな剣の形をしている。
カーテンを壊したときは大きな鎌のように湾曲していた。でもこの前より今回のは大きさも長さもある。これはまずい。
(僕はここにいる)
「うるさい、だまって!」
気づかないうちに声が大きくなっていた。奥でこちらに近づいてくる足音が聞えていたが、今の私は気づかずに言葉を続けた。
「もうやだ!こんな腕いらないよ!やだ!やだ!」
ここからはいつものサイクルだ。痛みを恨むべき対象を探してのたうち回って、みつけたものは今は動かない右腕。近くにある棚やテーブル、蝋燭立てや置時計、なければ左の手の爪を使って自傷行為を始める。あとは痛みが治まるまで気違いなショーは続いていく……。
ほら、今度はテーブルの角で攻撃だ。左が、掴んだ右腕を振り下ろそうとした。
「やめろ!」
☆
最初のコメントを投稿しよう!